かつて会社員時代には、医療機器メーカーの営業として長野県のいわゆる「東信」と呼ばれる地域を担当していた。
長野市から見たら東に位置する一帯で、上田市が一番近い市である。高速道路ができる前は地蔵峠と呼ばれる山道を、マニュアルミッションの営業車で毎日通っていた。長野市から位置すると、上田市が東信の入り口であるので上田市を皮切りに小諸市や佐久市、そしてとても広い北佐久郡や南佐久郡などにも点在する拠点病院を中心に営業活動をしていた。いずれにしても東信の入り口なので上田市は特に親しみがあるところである。
とはいえ、仕事で通うだけで日常生活とはほぼ無縁の土地である。「長野市からは遠いから」という理由だけであるが。長野冬季五輪開催のお陰で高速道路が整備され、今では足しげく当院に通ってくださる方も少なくない。長野市と上田市は「ちょっとお隣」ぐらいの距離感である。土地勘の無い方に説明しようとすると、「新幹線で一駅」の距離と言えばだいたい当たりである。
途中に千曲市という魅力的な市もあるが、その説明は後日に譲ることとする。
広い信州である。あちこちに名産がある。そして秋の味覚の王様である松茸も御多分に洩れずではあるが、上田は特に松茸の産地だと思う。
目次
松茸山の松茸料理に誘われる
突然ではない。実は春に拙書『ねこ背を治す教科書』が重版になったときに友人から「秋になったら松茸山でお祝いしよう!」とお誘いをいただいていた。「秋なんてまだまだ先の話だし、印税もまだ入ってないし…」と思っていても、季節は確実に進み秋がやってきた。一緒に行った友人からすれば、秋の味覚を堪能する高級なランチではあるが、私にとっては重版のお祝い贅沢ランチである。
松茸山 松茸料理 あぜみち山荘
海の家が、夏限定で営業するのを想像してもらうと分かりやすい。今回足を運んだ上田市の山間部に位置する「松茸山 松茸料理 あぜみち山荘」は松茸のシーズンにだけ開設される松茸小屋である。小屋と言ってもしっかりとしたテーブル席があり、電気も水道も通っている。海の家よりしっかりとした作りだ。
駐車場から険しい道のりを数百メートル歩く。いや、登ると表現してもいいかも知れない。
ここから小登山道が始まる。
シーズンだけ営業とあり、看板が頑張ってる感を演出してくれる。
さあ、山登りしますよ(笑)
写真で見ると遠近がしっかりしていますが、実際にはさほどの距離感はありません。
どうぞ安心して登山してください(笑)
夜になったら提灯に火が灯ってそれっぽくなるのかな。
ここまで登らなくても営業中かどうかは入り口で分かりますよ(笑)
あと一息!
お席についてからの風景。
遠くのお山がくっきり。いいお天気でした。
6000円のコース料理
予約をしてくれた友人のチョイスである。これが見事に外れたことがないので、いつも安心してお任せしている。
松茸鍋
松茸入りの鶏豚すき鍋といった風情の鍋物である。豚肉、鶏肉、こんにゃく、ねぎ、豆腐とともにどっさりの松茸を割り下で煮込み、溶き玉子でいただく。東京(江戸)を中心とした関東文化圏の人の好むすき焼きの味付けと言ったところだろうか。これだけの松茸があるのに、いつものすき焼きっぽい味付けなので、贅沢この上なし。いつもと同じような食べ方を、松茸でやってしまうところに贅沢さがある。ざっくりと切った松茸の繊維をジャクジャクと味わうことができた。鍋の後にはそこに締めのうどんを入れる。松茸や肉類から出た旨味がうどんに染み込んでいる。「旨味を集めたうどん」に敵はいない。
松茸土瓶蒸し
松茸の香りのする出汁を飲む、いわば松茸のエキスに特化したメニューを先人のどなたが考案したのだろうか?卓上コンロで持てないほど熱せられた土瓶を恐る恐る傾けると、現れるのは黄金色の液体である。学生時代に梅田(大阪市)に粋な飯屋があった。学生でも平気で食べられる価格帯の店ではあるが、定食の一品に松茸の土瓶蒸しが出てきたことがあった。世の中にこんなに芳醇な飲み物があったのかと、感動した。30年も前のことである。店の場所も名前も忘れてしまったが、感動したことは今でも覚えている。また会えたね。そう思いながら余韻に浸った。
松茸めし
秋になると、とにもかくにもコメのめしがうまい。白いご飯も美味しいが、秋にはやはり炊き込みご飯が嬉しい。希少価値の高い松茸であればなおさらだ。こちらの松茸めしは食べ放題である。最初にプラスチックケースで供されるのは、食べ切れなかった時の持ち帰り用だという。あっという間に食べつくし、2回もおかわりしてしまったのは、ここだけの秘密である。
松茸茶碗蒸し
私にとって、ご馳走といえば茶碗蒸しのことだと言っても過言では無い。具はなんでもいい。できれば銀杏と百合根が入っていればご機嫌であるが、決め手はダシである。実家の母の手作り茶碗蒸しに舌が慣れてしまっているので、そんじょそこらの茶碗蒸しでは満足できない舌になっている。こちらの松茸茶碗蒸しは、ダシがまずいわけがない。採れたての松茸を一切れ入れただけで十二分のダシが出るわけだが、大量に入っているので比類無きダシ、誰もが満足できるダシである。これでどうまずく作ることができようか。松茸のダシが口いっぱいに広がる茶碗蒸しは、死ぬまでに一度は食べておきたい逸品である。
ちなみにではあるが、私は子どもの頃から茶碗蒸しを箸で食べる。食べられる。いや、サジとか要らなくない?スプーンやサジで食べる人を見て、いつも「軟弱者め」と思ってしまうが、世のほとんどの人がサジを使って食べているので、幼少の頃の我が家は特別に箸づかいが上手だったということにしておこう。
その他
その他でひとくくりにしては失礼なのだが、他にも香の物や松茸汁も楽しんだ。はぁ〜お腹がいっぱいである。
まとめ
テレビで見たことはあったが、松茸小屋に実際に足を運んで「松茸」を食したのは初めてであった。希少価値のお陰で高価な食材になっている松茸であるが、キノコの中でも人工的に栽培するのが難しいのだとか。すでに工場での大量生産が成功している食用キノコ類には無い味わい、まさに自然のめぐみが感じられる。工場で作られるキノコには味わえない、土の香りの混じった松茸がいつまでも食べられるようにするには、こうして季節になったら松茸小屋に出向いて食べることが大切だと思う。
誰も見向きもしなくなったら、あっという間に松茸を食べる食文化も廃れてしまうだろう。山の手入れをして松茸が生える、それを求めて客が来る、その循環が里山を守ることにも繋がるんだろうな…などと勝手なことを考えてしまう。
お店情報
長野・上田で松茸を堪能するなら松茸小屋 あぜみち山荘
お店の詳細はこちら
http://azemichi.jp/
この記事を書いた人の著書
『ねこ背を治す教科書』(伊東稔/ソーテック社)
伊東 稔
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